(竹久夢二「待てど暮らせど来ぬ人を」)
夕暮れ時でしょうか、色を失った木々や山を背景に、一人の女性がうな垂れて泣いています。葉も枯れ落ちた季節なのに、透き通るような白い右手には花が握られ、寂寞のなかでみずみずしさを際立たせています。叙情あふれる大正ロマンを代表する夢二の女性像は、「夢二式美人画」と称され一世を風靡しました。特徴的なのは、そのフォルムです。力なくさめざめと悲しみにくれる女のしなる体は、たおやかで美しくさえあります。
夢二は1884(明治17)年、岡山県で生まれ、51年という生涯を通じて理想の女性像を追い続けた画家です。はじめは雑誌や新聞のコマ絵画家としてデビューし、その後楽譜の表紙や絵本の出版、また日用雑貨のデザインと幅広い分野でその才能を発揮し、大衆への人気を高めました。流行の最先端を生み出した夢二は、恋多き人生を送ったことでも有名です。この作品のモデルは定かではありませんが、夢二が描く女性は、ほとんどがその時々の妻や恋人の姿でした。なかでも深い愛情を注いだのが彦乃という女性でしたが、彼女は病により25歳という若さでこの世を去ってしまいます。
夢二は女性像に、孤独と絶望で憂いに染まった己の心を重ねて描こうとしていたのかもしれません。その姿は、激動の時代の不安に揺れ動く人々の心に強く響き、共感と支持を集めました。
●●輝ける女性像展●●
2010年3月26日(金)まで開催中。
お見逃しなく!(SR)