朱色の手提げ盆をささげてポーズをとる一人の女性。
その盆には、見事に実った果実がいっぱいに盛られています。
重心を左足にのせ、女性らしいやわらかなポーズをとってますが、女らしい美しさというよりは、むしろ生命の力強さを感じさせる作品です。豊満な女の体に、強くしまった筋肉の動きがとらえられ、がっしりとした安定感を出しています。盆からあふれ出る葡萄のたわわな房や、みずみずしく色づいた果実は、完熟の甘ずっぱい香りでアトリエを満たし、女もまた、その香りを体から発しているようです。
鑑賞者は、まずその迫力に足をとめざるを得ないでしょう。
力強くひかれた輪郭線は、肌や果実に濃密さを与え、体の曲線に沿い流れるような筆致で描かれた壁は、女を画面の外へ外へと押し出すようにうねり、画面全体から脈打つような生命感と重厚感がこちらに迫って来ます。
熊岡美彦は、1889(明治22)年茨城県石岡市に生まれました。家は製糸業を営んでおり、
石岡第一尋常小学校時代は、地元の南画家鬼沢小蘭に日本画を学びました。
熊岡は、1926(大正15)年から1929(昭和5)年までの滞欧期間、パリを拠点とし、
イタリア、オランダ、ドイツなどをめぐり、多くの美術館を訪れています。
そこで、セザンヌやマネの模写にも取り組み、ルノワールやマティス、ピカソ等の作品にも触れながら西洋美術を、自分の表現に積極的に取り入れていきました。
帰国後は、1931(昭和6)年、熊岡洋画研究所(後の熊岡絵画道場)を開き後進の育成に力を注いぎ、
翌年には斉藤与里らと「東光会」を結成し、1944(昭和19)年、55歳で急性喘息のため逝去するまで、
日本近代洋画の発展に貢献しました。
●●輝ける女性像展●●
2010年3月26日(金)まで開催中。
お見逃しなく!(SR)