笠間日動美術館:学芸員便り

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■「幻の大津絵と東海道五拾参次」の作品紹介 その2

2022年01月14日

「幻の大津絵と東海道五拾参次」で展示している、大津絵の中から「青面金剛」、「天神」、「塔」をご紹介いたします。
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大津絵「青面金剛」笠間日動美術館蔵

大津絵は、江戸初期から明治にかけて、職人によって描かれた無銘の庶民絵画でした。東海道最大の宿場であった「大津」の西端に位置する追分(おいわけ)、大谷(おおたに)で、土産物として旅人に売られていました。

歴史は長く、画題、形態、用途が受容に応じて変化しながら発展していきました。
初期には、民間信仰の対象である神仏画が主に描かれましたが、次第に世俗画や戯画が現れ、画題は百二十種あまりにのぼります。

また特徴として、大津絵は肉筆で描かれていますが、土産物として量産する為に略画化がされ、型紙で彩色されている点があげられます。

量産された大津絵でしたが、安価な土産物であったために現存するものは国内外の美術館などにわずか数百点残るのみとなっています。

今回は、仏に関連する画題である「青面金剛」と「塔」、庶民に信仰された「天神」をご紹介いたします。

「青面金剛(しょうめんこんごう)」
民間信仰に深く関わりのある「青面金剛」は、初期大津絵のなかでも作例の多い画題です。病魔から身を守り、悪鬼を祓う力をそなえていたことから、江戸時代には「庚申信仰(こうしんしんこう)」の本尊として大津絵でも人気がありました。
上部に日月、中央左右に青面金剛の使者である一対の猿、下部の左右には同じく使者である一対の鶏が描かれています。なお、鶏は木版で表現されています。

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大津絵「塔」笠間日動美術館蔵

「塔」
丘の上に建てられた五重の塔である「塔」は、大津絵の中で建物を描いた唯一の画題です。初期の大津絵は、仏画が多く描かれましたが、中期に入るとその姿は消えてしまいました。ですので、「塔」は仏画として捉えられていたと考えられています。
塔の左右には「道歌」(仏教や儒教の思想を表す道徳的な和歌)が書かれており、この「塔」には、
  安置する佛(ほとけ)は心身は塔の
  道理をしめす物と知るべし
と書かれています。

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大津絵「天神」笠間日動美術館蔵

「天神」
「青面金剛」とともに初期大津絵にみられる画題のひとつです。天神は平安時代の貴族の菅原道真(845-903)の神号、「天満大自在天神」の略称です。道真の死後、朝廷によって「天神」として祀られ、学問の神として信仰されています。現在でも天満神社、天神社、菅原神社などとして各地に祀られています。背景には松と道真の「飛梅伝説」(とびうめでんせつ)で知られる梅が描かれています。

当時から民衆に信仰され、病魔から身を守る「青面金剛」や、学問の神様である「天神」など、コロナ禍や受験シーズンの今だからこそ、鑑賞していただきたい作品を展示しております。

*1月2日(土)から3月6日(日)まで開催中の「幻の大津絵と東海道五拾参次」は会期中、前期後期で展示替えがございます。歌川広重「東海道五拾参次」のうち、日本橋-掛川までを展示する前期は、2月6日(日)までとなっております。後期は2月8日(火)から3月6日(日)まで。(袋井-京都 三条大橋まで)

展覧会の詳細については
PCから→ https://www.nichido-museum.or.jp/exhibition.html

スマートフォンから→ https://www.kasama-nichido-museum.com/post/%E5%B9%BB%E3%81%AE%E5%A4%A7%E6%B4%A5%E7%B5%B5%E3%81%A8%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E9%81%93%E4%BA%94%E6%8B%BE%E5%8F%82%E6%AC%A1

(T.T)