笠間日動美術館:学芸員便り

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■「幻の大津絵と東海道五拾参次」の作品紹介 その3

2022年01月21日

「幻の大津絵と東海道五拾参次」で展示している、歌川広重の「東海道五拾参次」の中から4番目の宿「保土ケ谷宿 新町橋」(保永堂版)、16番目の宿「由井宿」(丸清版)、20番目の宿「鞠子宿 名物茶屋」(保永堂版)の三点をご紹介いたします。

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歌川広重「東海道五拾参次 保土ケ谷宿 新町橋」(保永堂版) 個人蔵

昔も今も旅の醍醐味のひとつに、旅行先の名物を食べることが挙げられます。

江戸時代の川柳の句集『誹風柳多留(はいふうやなぎだる)』には、「名物をくふが無筆の道中記」と詠まれ、当時も飲食は旅の楽しみでした。

しかし、「無筆の道中記」とあるように実際の旅行者がどのようなものを食べていたかという日記や紀行文による記録は少なく、作品に描かれる食べ物に関する情報は、当時を知る貴重な資料でもあります。

そこで今回は東海道五拾参次の中から食べ物に関する作品をご紹介いたします。

歌川広重「東海道五拾参次 保土ケ谷宿 新町橋」(保永堂版) 個人蔵
本作の画面手前に流れる川は、帷子川(かたびらがわ)で対岸にあるのが保土ケ谷宿です。橋の向こうには「二八そば」の看板が見られます。この「二八そば」は当時の蕎麦一杯の値段が16文(現在でいう約320円)で、2×8=16(文)という洒落から名付けられた説があります。
また、浮世絵が流通するようになってからの一般的な大判錦絵は、1枚20文(約400円)で売られたとされています。だいたい蕎麦一杯分と同じくらいの値段で浮世絵版画は販売され、江戸庶民を楽しませました。

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歌川広重「東海道五拾参次 由井宿」(丸清版) 笠間日動美術館蔵

由井宿と興津宿の間に位置する薩埵峠(さったとうげ)は、東海道の三大難所のひとつと数えられていましたが、峠から見える富士山と駿河湾を望む景色は絶景と知られています。保永堂版の由井宿では、広重が残したその様子を観ることができます。
丸清版には画面右下に当地の名物「さざえの壺焼き」の文字がみられます。

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歌川広重「東海道五拾参次 鞠子宿 名物茶屋」(保永堂版)個人蔵
鞠子宿の名物は「とろろ汁」で、看板にも「名物とろヽ汁」の文字や「お茶漬」、「酒さかな」などが見られます。
鞠子宿のとろろ汁は、当時大ヒットした「弥二さん、喜多さん」でおなじみの十返舎一九『東海道中膝栗毛』(1802-1814)にも登場します。(物語の中で二人は、店主の夫婦げんかによってとろろ汁を食べることはできませんでした。)
保永堂版の店先で休息をとる男性二人は、弥次さんと喜多さんを意識して描かれたかもしれません。

また、鞠子宿の茶屋を描いた浮世絵は、クロード・モネの連作「積みわら」に構図やグラデーションの使い方など影響を与えたとされています。

*1月2日(土)から3月6日(日)まで開催中の「幻の大津絵と東海道五拾参次」は会期中、前期後期で展示替えがございます。歌川広重「東海道五拾参次」のうち、日本橋-掛川までを展示する前期は、2月6日(日)までとなっております。後期は2月8日(火)から3月6日(日)まで。(袋井-京都 三条大橋まで)

展覧会の詳細については
PCから→ https://www.nichido-museum.or.jp/exhibition.html

スマートフォンから→ https://onl.la/f9LndqW
(T.T)