2023年は関東大震災から100年の節目にあたります。そのことに因み当館では所蔵作品の「ベルギーの聖女(黒衣の婦人像)」を展示しております。
アルフレッド・カーンAlfred CAHEN(1851 -不詳)
「ベルギーの聖女(黒衣の婦人像)」笠間日動美術館蔵
1923年に日本が関東大震災で被災した報を受け、ベルギーの芸術家たちは自身の作品を日本へと送り寄贈しました。それらの作品は1924年11月16日から22日まで、内務省社会局で「白耳義(ベルギー)国作家寄贈絵画展覧会」という名称のチャリティー展覧会で展示され、作品の売上金が義捐金として充てられました。本作は、その展覧会で出品された一点となります。
■作家と作品について
アルフレッド・カーン(1851-不詳)
ベルギーのブリュッセル出身の肖像画家です。カーンは、1910年に開催されたブリュッセル万国博覧会に参加し、作品を出品しています。
「ベルギーの聖女(黒衣の婦人像)」油彩、カンヴァス 66.0×50.0? 笠間日動美術館蔵
1924年11月16日から22日まで、内務省社会局で「白耳義国作家寄贈絵画展覧会」という名称のチャリティー展が開催され、その際に制作された陳列目録によれば、本作は「殉難の白耳義」という題名で出品されました。なお、当館を創設した長谷川仁が長らく所有しており、牧師としての経歴から、聖女という宗教的なモチーフを描いた作品である本作を入手したのではないかと考えられます。
■ベルギーと日本の美術による関係
ベルギーは1914年に勃発した第一次世界大戦で戦場となりました。この窮状に画家の黒田清輝が中心となって、ベルギーとフランスの出征した芸術家のために二国へ留学経験のある日本人芸術家に対して救援を呼びかけました。呼びかけに応じた作家たちによって、1914年に「恤兵(じゅっぺい)美術展覧会」と1918年に「欧州大家絵画展覧会」を開催し、売上金の一部と有志の寄付を合わせた義捐金をベルギーへと送ることとなりました。
また、1923年に日本で発生した関東大震災に被災した報を受け、ベルギーの芸術家たちは自身の作品を日本へ寄贈し、売上金を義捐金としました。134点がまずは1924年にブリュッセルでお披露目展示され、その後日本へ運ばれます。チャリティー展「白耳義国作家寄贈絵画展覧会」は、約4万人を動員し、売上総額は2万685円に上りました。しかし、著名な作家は少なく、ベルギーの芸術家の厚意によるチャリティー事業であるため、アマチュア画家が多く含まれています。そのため、この時に出品された作家の情報や作品の所在や明らかになっていません。
参考文献:伊澤朋美、迫内祐司、山田真規子、吉尾梨加(2023)『ベルギーと日本 光をえがき、命をかたどる』、ベルギーと日本展実行委員会。